課題一覧表は、業務領域ごとに「今どうなっているか(ASIS)」「どうなっていたいか(TOBE)」「その差として越えるべきもの(GAP)」を1行ずつ並べた表です。関係者が同じ1枚を見て、どの課題から手を付けるかを決めるために使います。この記事では、そのまま使える8列のテンプレートと受発注業務での記入例、聞き取りの前後での使い方を説明します。
課題一覧表が必要になる場面
業務改善やシステム導入の初期には、聞き取りのメモ、現場で撮った帳票の写真、依頼者からのメールなど、情報があちこちに散らばります。この状態だと、次のようなことが起きます。
- 同じ課題を部署ごとに別の言葉で話していて、重複に気づかない
- 声の大きい人の困りごとが優先され、影響の大きい課題が後回しになる
- 「前回の打ち合わせで何が決まったか」を毎回確認し直すことになる
課題一覧表は、こうした情報を1つの形式にそろえる道具です。表を見れば、どの業務領域で何が課題になっていて、どこまで確かめられているかが分かります。
テンプレート(8列)
列は次の8つで足ります。Excelやスプレッドシートにそのまま写して使えます。
| ID | 業務領域 | ASIS(現状) | TOBE(ありたい姿) | GAP(越えるべきもの) | 優先度 | 担当 | 補足(確度・出典・次の確認事項) |
|-----|----------|--------------|--------------------|-----------------------|--------|------|----------------------------------|
| 01 | | | | | 高/中/低 | | 仮説 or 確定/誰に聞いたか/?の内容 |
| 02 | | | | | | | |
各列の書き方は次のとおりです。
| 列 | 書くこと | 書き方のコツ |
|---|---|---|
| ID | 通し番号 | 行を消しても番号は詰めない。議事録から参照するため |
| 業務領域 | 受注、発注、在庫照会など | 業務フローの単位にそろえる。部署名で分けない |
| ASIS | 今の手順と数字 | 「FAXで月200件、1件8分」のように件数と時間を入れる |
| TOBE | ありたい状態 | 「誰が・何を・どうする」で書く。「効率化」で止めない |
| GAP | ASISからTOBEに行くために越えるもの | 不満の列挙ではなく、解くべき問題として書く |
| 優先度 | 高・中・低 | 効果の大きさと着手のしやすさで決める(後述) |
| 担当 | 確認や対応を進める人 | 顧客側と自社側の両方を書くこともある |
| 補足 | 確度、情報の出どころ、次に確かめること | 「仮説」「確定」を必ず書く |
記入例:機械部品の卸売会社の受発注
機械部品を仕入れて工場に販売する会社の、受発注まわりの記入例です。
| ID | 業務領域 | ASIS | TOBE | GAP | 優先度 | 担当 | 補足 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 01 | 受注 | 得意先からFAXで月約300件。事務が基幹システムに手入力、1件約6分 | 得意先がWebで発注し、そのまま受注データになる | 主要得意先20社のWeb発注への移行。FAXを残す得意先の取り込み方法 | 高 | 営業課長/当社PM | 件数は確定(受注データで確認)。移行に応じる得意先数は? |
| 02 | 在庫照会 | 得意先から電話で月約80件。担当が倉庫に内線で確認して折り返す | 得意先が在庫の有無を自分で確認できる | 在庫数の更新が1日1回のため、リアルタイム表示には更新頻度の見直しが要る | 中 | 物流担当 | 仮説。件数は営業の体感値。通話記録で確認する |
| 03 | 発注 | 在庫が減ったら担当が気づいて発注。欠品が月に数件 | 発注点を下回ったら発注候補が一覧に出る | 品目ごとの発注点が決まっていない。決めるための出荷実績の集計が必要 | 高 | 購買担当 | 仮説。欠品件数は? 担当者の経験で発注している品目の割合は? |
| 04 | 請求 | 月末に請求書を印刷して郵送。3日かかる | 請求書を電子で送付する | 得意先側の受け取り方法の確認。電子化に応じない得意先の扱い | 低 | 経理 | 確定。効果は郵送費と作業3日分 |
ASISに数字が入っているか、TOBEが「誰が・何を・どうする」になっているか、GAPが「越えるべきもの」として書かれているかを、行ごとに確認します。
使い方1:空欄ではなく仮説で埋めて持参する
課題一覧表は、聞き取りの場で白紙から埋めるものではありません。事前に手に入る情報から仮説で埋めて持参し、相手に直してもらう形で使います。
- ASIS:受注データの件数、帳票の様式、組織図、同業他社の一般的な業務から推測する
- TOBE:1案だけでなく、変更の小さい案から大きい案まで複数の候補を考えておく
- GAP:同じ業界でよく起きる課題を当ててみる
仮説の行は、色を変えるか補足欄に「仮説」と書いて区別します。聞き取りで確かめられたら「確定」に変え、外れていたら外れた理由をメモしておくと、次の聞き取りの精度が上がります。埋められない欄は無理に埋めず、「?」と次に聞くことを補足に残します。聞き取りの進め方はヒアリングの記事を参照してください。
使い方2:GAPの粒度をそろえる
GAPの書き方がそろっていないと、優先順位を比べられません。よくある粗すぎる書き方と、直し方の例です。
| 粗い書き方 | 直した書き方 |
|---|---|
| 業務効率化 | 受注の手入力(月約300件×6分)をなくすための、得意先のWeb発注への移行 |
| システムが古い | 在庫数の更新が1日1回で、得意先への在庫表示に使えない |
| 属人化している | 発注点が担当者の経験で決まっており、品目ごとの基準がない |
1つのGAPが大きすぎるときは、原因ごとに分けて別の行にします。分け方に迷う場合は、イシューツリーで「なぜそうなっているか」を分解すると整理できます。分解の手順はイシューツリーの記事にまとめています。
使い方3:優先度を効果と着手のしやすさで決める
優先度は、感覚ではなく2つの軸で決めます。
- 効果:工数が月何時間減るか、欠品や誤りが何件減るか、売上にどう効くか
- 着手のしやすさ:費用、期間、他部署や取引先の協力がどれだけ要るか
効果が大きく着手しやすいものが「高」、効果は大きいが準備が要るものは「高」のまま前提条件を補足に書く、効果が小さいものは「低」とします。上の例の請求(ID 04)は確定していて着手もしやすいですが、効果が小さいので「低」にしています。
使い方4:版を残して更新し続ける
課題一覧表は1回で完成しません。聞き取りや打ち合わせのたびに更新し、日付を付けて版を残します。更新のときは次の点を確認します。
- 仮説のまま残っている行は、次に誰に何を聞けば確定するか
- 新しく見つかった課題が、既存の行と重複していないか
- 優先度を変えた行は、変えた理由を補足に書いたか
打ち合わせの冒頭で前回からの差分だけを見せると、確認の時間が短く済みます。
表を共有するときの注意
課題一覧表は、顧客と自社の両方で見る資料になります。共有する前に、次の点を確認しておきます。
- 個人を責める書き方になっていないか:「Aさんの確認漏れ」ではなく「確認の手順が決まっていない」のように、仕組みの問題として書く
- 社内限りの情報が混じっていないか:自社側の見積の見込みや、別の顧客の事例の固有名は補足欄から外す
- 相手の言葉で書かれているか:業務領域や帳票の名前は、相手の社内での呼び方に合わせる
特に1つ目は、聞き取りに協力してくれた現場の人との関係に直接響きます。表は課題を責める場所ではなく、解く順番を決める場所だと考えて書きます。
よくある失敗
- 白紙の表を持って行って「教えてください」と聞く:相手は何を答えればいいか分からず、抽象的な話で時間が終わる
- ASISに数字がない:「多い」「時間がかかる」では優先度を比べられない
- GAPが不満の一覧になる:「使いにくい」「古い」が並び、何を解けばよいかが見えない
- 仮説と確定を区別しない:推測で書いた数字が、いつの間にか事実として扱われる
- 1回作って更新しない:決まったことと決まっていないことが分からなくなる
この記事のまとめ
- 課題一覧表は、業務領域ごとのASIS・TOBE・GAPを1枚に並べて優先順位を決める表
- 列はID・業務領域・ASIS・TOBE・GAP・優先度・担当・補足の8つで足りる
- ASISには件数と時間を、TOBEには「誰が・何を・どうする」を書く
- 聞き取りの前に仮説で埋めて持参し、確定・外れを記録する
- GAPは越えるべき問題として粒度をそろえ、大きすぎるものは分ける
- 優先度は効果と着手のしやすさで決め、版を残して更新し続ける
この記事の内容は、ロードマップのStep 2「聞く」にあたり、次のStep 3「課題を構造化する」につながります。表を使った聞き取りを演習で身につけるなら、FDEガイドのプロジェクトスタート時のヒアリングを、課題の分解はイシューツリーを参照してください。演習とテストはlecture.iplot.jpで取り組めます。
