実装エンジニアがFDEになるには、新しい技術を学ぶよりも、仕様が決まる前の工程を順番に経験していくことが近道です。具体的には「業務を読む → 聞く → 課題を整理する → あるべき姿を描く → 決める」の順に、今の仕事の中で小さく試していきます。この記事では、その順番と理由、今の現場でできること、つまずきやすい点を説明します。

実装エンジニアに足りないのは「仕様の手前」の経験

実装を数年続けてきたエンジニアは、設計の判断、既存コードを読む力、不具合の原因を追う力をすでに持っています。FDEの仕事のうち「作る」部分は、ほぼそのまま通用します。

足りないのは、多くの場合次の経験です。

  • 現場の業務がどう流れているかを、自分の目と耳で把握した経験
  • 顧客の話から課題を見つけ、優先順位をつけた経験
  • 作る範囲を顧客と交渉し、合意した経験

これらは研修で知識として学ぶことはできても、実際にやってみないと身につきにくいものです。ただし、いきなり上流工程の案件を任される必要はありません。今の仕事の中に、練習できる場面がいくつもあります。FDEの仕事の全体像はFDEとは?で説明しています。

身につける順番は「読む・聞く・整理する・描く・決める」

上流のスキルには、身につける順番があります。前の工程ができていないと、次の工程がうまくいかないからです。

順番 スキル できるようになること 関連するガイド
1 業務を読む 業務フローを図にし、データから業務を推測できる ASIS業務フロー、データから業務を予想
2 聞く 仮説を持ってヒアリングし、現状・あるべき姿・差分をそろえられる プロジェクトスタート時のヒアリング
3 整理する 課題を根本原因まで分解できる イシューツリー、仮説思考
4 描く 課題が解消された後の業務フローを描ける TOBE業務フロー設計
5 決める 要件と見積もりを顧客と合意できる 現場導入のための要件定義、見積もりのやり方

最初に「業務を読む」を置いているのには理由があります。業務の流れがわからないまま顧客の話を聞くと、何を聞けばよいかがわからず、相手の話をメモするだけで終わってしまうからです。逆に、事前に業務フローの仮説を持って行けば、「この確認作業は誰がやっていますか」「この帳票はどこに回りますか」と具体的に聞けます。

今の現場でできる練習

上流の案件に入る前でも、今担当している仕事の中で各ステップを練習できます。

ステップ1の練習:担当機能の業務フローを書く

自分が実装している機能について、その機能が使われる業務の流れを図にしてみます。たとえば在庫管理システムの入荷登録画面を担当しているなら、次の流れを書きます。

  1. 仕入先から商品が届く
  2. 倉庫担当が納品書と現物を照合する(検品)
  3. 数量が合えば入荷登録、合わなければ仕入先に連絡
  4. 入荷登録された数量が在庫に反映される
  5. 経理が月末に仕入額を締める

書いてみると、「数量が合わないとき、登録はどうしているのか」「経理は入荷登録のデータをどう使っているのか」など、わからない点が出てきます。この「わからない点」が、次のステップで聞くべき質問になります。

ステップ2の練習:仕様の背景を一つ聞く

仕様の確認をするときに、ついでに一つだけ背景を聞いてみます。「この項目を必須にするのは、後工程で何に使うからですか」のような質問です。答えが返ってくると、業務フローの図がより正確になります。毎回一つずつでも続けると、仕様を出す側が何を考えているかが見えてきます。

ステップ3の練習:不具合や要望の「本当の原因」を考える

障害対応や改修要望が来たとき、直す前に「なぜこれが起きたのか」を一段深く考えます。たとえば「請求書の金額がずれる」という不具合でも、原因がプログラムなのか、締め日の運用ルールが部署ごとに違うことなのかで、打つべき手が変わります。課題を原因まで分解する練習になります。

ステップ4・5の練習:小さな改善を自分から提案する

日々の作業の中で見つけた小さな改善(手作業の確認を一つ減らす、入力項目の順番を業務の流れに合わせる、など)を、改善前と改善後の流れを並べて提案してみます。提案が通るかどうかより、「今の流れ」「変えた後の流れ」「そのために作るもの」を一枚にまとめる経験が大切です。

つまずきやすい点

実装エンジニアが上流に踏み出すときに、よくあるつまずき方を挙げておきます。

  • 解決策から考えてしまう:話を聞きながら「こう作ればいい」と頭の中で設計を始めてしまい、現状の把握が浅くなる。まずは現状を図にすることを優先する
  • 顧客の言葉をそのまま要件にしてしまう:「ボタンを一つ増やしてほしい」という要望の裏に、別の課題があることは多い。要望を聞いたら、その目的を一度確かめる
  • 全部を作ろうとしてしまう:出てきた課題をすべて解決しようとすると、範囲が広がって期限に間に合わない。優先順位をつけ、今回作らないものを決めることも仕事のうち
  • 作った後の確認を開発側だけで済ませる:テストが通っても、業務上正しいとは限らない。現場の担当者と一緒に、実際の業務データで動作を確かめる

最後の点は動作確認の基本で、業務上「ここが動けばよい」を判定する型として整理されています。

段階ごとの目安

経験の段階を、担当できる範囲で分けると次のようになります。FDE Guildでは、この段階を見習い・一人前・熟練・師範という呼び方で表しています。

段階 担当できる範囲 次に目指すこと
見習い 経験者の隣で、業務フローの作成やヒアリングの記録を担当する 自分で仮説を持ってヒアリングする
一人前 小規模な案件で、課題整理から実装までを一人で担当する 要件と見積もりを顧客と合意する
熟練 複数の部署にまたがる案件で、方針から定着までを担当する 見習いを育てながら案件を進める
師範 大きな案件を率い、他のメンバーの伴走もする 型そのものを改善し、周りに広げる

どの段階でも実装はし続けます。FDEのキャリアは実装から離れていく道ではなく、実装の前後に担当範囲を広げていく道です。

この記事のまとめ

  • 実装エンジニアに足りないのは技術ではなく、仕様が決まる前の工程の経験
  • 身につける順番は「読む・聞く・整理する・描く・決める」で、業務を読むことが出発点
  • 担当機能の業務フローを書く、仕様の背景を一つ聞くなど、今の現場でも練習できる
  • よくあるつまずきは、解決策から考える、要望をそのまま要件にする、全部作ろうとする、確認を開発側だけで済ませること
  • FDEのキャリアは、実装の前後に担当範囲を広げていく道

身につける順番をそのまま7つのステップにしたものがFDEになるロードマップです。最初のステップ1「業務を読む」では、ASIS業務フローとデータからの業務予想を扱っているので、まずは担当している機能の業務フローを書くところから始めてみてください。