受注、出荷、問い合わせなどのCSVを見ると、ヒアリングの前でも業務の流れをかなり推測できます。時系列・構造・異常の3つの観点で見て、分布に分かれ目があればデータを分けて比べ、そこから「誰が、何をきっかけに、何をしているか」の仮説を確信度つきで書くのが基本の手順です。

この記事では、データを扱うことには慣れているエンジニアが、それを業務の理解に使うための考え方を説明します。

なぜヒアリングの前にデータを見るのか

ヒアリングで現場の担当者に「普段どうやっているんですか?」から聞き始めると、基本的な説明に時間を取られ、肝心の論点まで届きません。データからある程度の仮説を作ってから臨めば、ヒアリングは「一から説明してもらう場」から「仮説を確かめる場」に変わり、現場の時間も短くて済みます。

データから作るASISは正解ではなく、議論の叩き台です。外れていてもかまいません。外れた箇所が分かること自体に価値があります。

データを見る3つの観点

観点 見るもの 分かること
時系列 日時、曜日、月、期間の分布 業務の周期(日次・週次・月次・季節)
構造 コード体系、マスタとの関係、カテゴリ 業務の分け方(部門、商品群、取引先)
異常 欠損、外れ値、重複、矛盾 例外処理、属人化、システムの限界

順番は時系列、構造、異常です。先に業務のリズムと分類をつかんでおくと、異常値を見たときに「これは例外処理だ」と解釈しやすくなります。

最初に全カラムの分布を見る

データを読み込んだら、平均値を計算する前に全カラムの分布を描きます。数値の列はヒストグラム、カテゴリの列は件数の棒グラフです。AIのコーディングツールに次のように頼むと、短時間でまとめて出せます。

orders.csv の数値カラム(数量・金額・リードタイムなど)はヒストグラム、
カテゴリカラム(担当者・取引先・ステータスなど)は件数の棒グラフで描いて。
画像で保存し、それぞれの分布から読み取れることを箇条書きにして。

分布の形には、業務上の意味があります。

分布の形 考えられる業務 次にやること
山が1つで左右対称 1種類の業務 そのまま深掘り
山が2つ 性質の違う2つの業務が混ざっている 分けて比べる
片側に偏る 例外対応が常態化している 偏りの原因を探す
裾が長い まれなケースが定期的に起きる 外れ値を業務の文脈で読む
上位数件に集中 一部の取引先や品目が大半を占める 対象範囲の判断に使う

平均値だけを見ると、山が2つある分布を見落とします。ビンの数を変えたり、値の幅が大きいときは対数軸も試したりしてください。

分かれ目があったら、分けて比べる

業務の構造を見つけるのに効果的なのが、「分布で分かれ目を見つける、そこで2グループに分ける、他の全カラムを比べる」という手順です。

  1. ヒストグラムで山が2つある、または明確な分かれ目がある列を見つける
  2. 分かれ目の値でデータを2グループに分ける
  3. 他のすべてのカラムについて、2グループの件数、平均、分布、ユニーク値を比べる
  4. なぜこの2グループが存在するのかを業務の文脈で解釈する

比べるカラムを1つに絞らないことが大事です。担当者、時刻、頻度、取引先、品目のすべてを並べると、2つのグループが別々の業務であることがはっきり見えてきます。

担当者・時刻・欠損から読み取れること

担当者の列があれば、必ず集計します。

  • 1人に件数が集中している:専任者がいる。休むと止まる属人化の可能性
  • 複数人に均等に分かれている:持ち回りの体制
  • 担当者ごとに取引先が固定されている:顧客の担当制

時刻の列からは、業務時間外の処理が見えます。深夜や休日の記録があれば、システムの自動処理なのか、人が緊急対応しているのかを切り分ける対象になります。

欠損は「データが汚い」で片付けず、業務の手がかりとして読みます。一部の行だけ担当者が空なら、自動処理か代理対応かもしれません。古い期間だけ空の列は、途中から使い始めた項目です。ステータスに「キャンセル」があれば、承認や取消の手順がどこかにあるはずです。

具体例:工具卸の受注CSVを読む

ある工具卸の1年分の受注CSV(受注日時、取引先コード、品目コード、数量、担当者、ステータス、出荷日)を受け取ったとします。

時系列:受注は平日に多く、月曜の午前と金曜の夕方に件数の山があります。また毎月25日前後に大口がまとまっています。

数量の分布:ヒストグラムを描くと、数量10個未満の小さな山と、100個以上の山の2つに分かれていました。そこで2グループに分けて比べます。

比較項目 小口(10個未満) 大口(100個以上)
件数 多い 少ない
受注の時刻 終日ばらばら、夕方に集中 25日前後の日中
取引先 多数の工務店 一部の製造業
担当者 営業事務3名で持ち回り 特定の1名
受注から出荷まで 当日か翌日 1〜2週間

ここから、次の仮説が立ちます。小口は工務店からの「現場で足りなくなったものの急ぎの注文」で、営業事務が持ち回りで受けて当日出荷している。大口は製造業との「月次の定期発注」で、担当1名が取引先ごとの予定に沿って処理している。

異常:出荷日が空でステータスが「保留」の行が、大口側にだけ一定数あります。在庫が足りず、仕入れ待ちになっている可能性があります。

これを業務フローの仮説として書き、確信度を付けます。

[小口] 工務店が電話かFAXで注文する(?:受付手段はデータにない)
  → 営業事務が受注登録する(◎:担当者列から)
  → 倉庫が当日〜翌日に出荷する(◎:出荷日から)

[大口] 毎月25日前後に製造業から定期の注文が届く(○:日付の偏りから)
  → 担当1名が受注登録する(◎)
  → 在庫不足の場合は保留にして仕入れを待つ(△:保留の意味は要確認)
  → 1〜2週間で出荷する(◎)

確信度の印は、◎がデータから明確に読み取れる事実、○が高い確度で推測できるもの、△が別の解釈もありうるもの、?がデータでは判断できないものです。

「データでは分からないこと」をリストにする

仮説を書いたら、必ず分からないことの一覧を作ります。これがそのままヒアリングの質問になります。

分類 今回の例
受付手段 小口の注文は電話か、FAXか、メールか
例外 「保留」は在庫不足だけか、与信や仕様確認もあるか
判断 大口の担当1名が不在のときは誰が処理するか
在庫 在庫数はどこで管理しているか(今回のデータにはない)

△と?の付いたステップは、それぞれどの質問で確かめるかを紐づけておきます。ヒアリングの冒頭で「データからはこう読めましたが、合っていますか?」と見せれば、短い時間で多くのことを確定できます。

よくある失敗

  • 平均値だけで判断する:小口と大口が混ざったまま平均を取ると、実在しない「中くらいの注文」が見えてしまいます
  • 1カラムずつ眺めて終わる:分けたあとに全カラムを横並びで比べないと、2つの業務の違いが見えません
  • 欠損や異常値を消してから分析する:例外処理の手がかりを自分で捨てることになります
  • 確信度を付けない:推測と事実が混ざったフローを見せると、相手はどこを確認すればよいか分かりません
  • データを全部見終えてから仮説を考える:仮説を持ちながら見るほうが、どこを集計すべきか決まり、早く進みます
  • AIに丸投げする:「業務を推測して」とだけ頼むより、列の意味の確認、分布と異常の列挙、仮説、フロー化、確信度の付与と、段階を分けて指示するほうが使える結果になります

この記事のまとめ

  • ヒアリングの前にデータからASISの仮説を作ると、ヒアリングが確認の場になる
  • 時系列、構造、異常の順に見る
  • 最初に全カラムの分布を描き、山が2つあれば分けて全カラムを比べる
  • 担当者の偏り、時刻、欠損は業務の手がかりとして読む
  • 仮説には確信度を付け、分からないことをヒアリング項目にする

作った仮説の描き方は業務フロー(ASIS)の書き方、仮説を持って確かめにいく方法はASIS・TOBE・GAPをそろえるヒアリングで詳しく説明しています。仮説そのものの考え方は仮説思考も参考にしてください。

データから業務を読む力は、FDE Guildのロードマップ ステップ1「業務を読む」に含まれるスキルです。元になった手順はFDEガイド「データから業務を予想」にまとまっており、スライド・演習問題・テストはlecture.iplot.jpで取り組めます。