FDE(Forward Deployed Engineer)の求人は、2025年から2026年にかけて海外で急速に増えています。きっかけは、生成AIを企業の業務に組み込む段階で「顧客の現場に入って作る人」が足りなくなったことです。この記事では、FDEという働き方の由来、海外の主要企業の動き、日本の状況を、確認できた出典にもとづいて整理します。数字はすべて記事末の「参考」に出典を載せています。

FDEという働き方はPalantirで定着した

FDEは、データ分析ソフトウェアを提供する米Palantirで定着した働き方として知られています。同社は10年以上前から独自のFDE部門を運営していると報じられており、エンジニアを顧客の組織に直接入れて、現場の課題を聞きながらソフトウェアを作り込むやり方をとってきました。OpenAIの新会社を報じた米Constellation Researchの記事でも、FDEのモデルはPalantirが広めたものと紹介されています。

Palantirの元FDEには、その後に起業した人も多いことが知られています。米Business Insiderは、防衛テック企業Andurilの創業メンバーのうち2人がPalantirのFDE出身だと伝えています。顧客の業務を深く理解し、作って届けるまでを一人で回す経験が、事業づくりにも通じるということだと考えられます。

2025年以降、AI企業がFDEの組織を相次いで作った

FDEが改めて注目されたのは、生成AIの企業向け導入が本格化してからです。主な動きを時系列で並べます。

時期 企業 動き
2025年 OpenAI FDEのチームを立ち上げ、2025年中に約50人規模へ拡大する計画と報じられた
2026年5月4日 Anthropic Blackstone、Hellman & Friedman、Goldman Sachsと組み、企業のAI導入を担うサービス会社の設立を発表。中堅企業を主な対象とする
2026年5月11日 OpenAI 「OpenAI Deployment Company」を設立。40億ドル超の初期投資を受け、英国のAIコンサル企業Tomoroを買収して約150人のFDEを基盤にすると発表
2026年5月 Google Cloud FDEを置く新しいAI組織のための採用を進めていると報じられた
2026年6月30日 AWS FDEを配置する専門部署を新設。初期投資は10億ドルで、5〜6人のチームを45日間顧客に派遣する計画。初期顧客にリコーが含まれる

Anthropicの新会社について、Goldman Sachsの発表文には「フォワードデプロイドエンジニアへのアクセスを広げる」という趣旨の発言が載っています。これまで大企業しか確保できなかったFDEを、中堅企業にも届ける狙いが示されています。

FDEの求人件数の伸びを示すデータ

求人の伸びについては、いくつかのデータが報じられています。

  • Indeedのデータ:2026年4月のFDE求人件数は、2025年1月比で5230%増、前年同月比で約729%増(Business Insider Japan)
  • LinkedInの報告:FDEや同様の役割の需要は、2023年から2025年にかけて42倍に増加(ロイター)
  • Indeedのデータ(英フィナンシャル・タイムズの報道):応用AI分野の求人が2025年1月から9月にかけて800%超の増加(Storyboard18)

集計の期間や「FDE」の定義がそれぞれ違うため、数字どうしを直接比べることはできません。ただ、どのデータでも伸びが極めて大きいことは共通しています。もとの件数が小さかった職種なので、伸び率が大きく出やすい点も考慮しておく必要があります。

FDEへの慎重な見方もある

一方で、慎重な意見もあります。Business Insider Japanの記事では、元Snowflake最高収益責任者のクリス・デグナン氏が、FDEを名ばかりのプロフェッショナルサービス担当者と評し、優秀なエンジニアはコア製品の開発に携わりたがる、顧客側に技術的負債を残すおそれがある、と指摘しています。

この指摘は、FDEの仕事の質を考えるうえで参考になります。顧客の要望をその場しのぎで作り込むだけでは、作った人がいなくなった後に保守できない仕組みが残ります。FDEに求められるのは、作ることに加えて、現場が使い続けられる形に整えることです。

なぜ今FDEが増えているのか

報道されている動きを踏まえると、FDEが増えている理由は次のように整理できます。

  1. 生成AIは「導入して終わり」にならない:AIを業務に使うには、社内データとの接続、業務ルールの反映、出力の確認手順など、顧客ごとの作り込みが必要になる
  2. 何に使えるかを顧客自身が判断しにくい:要件を出してもらってから作るやり方が成り立ちにくく、試作を見せながら要件を固める人が必要になる
  3. AIの提供側にとって、利用拡大が売上に直結する:使われる業務が増えるほど利用量が増えるため、提供側が導入支援に人を割く理由がある

1と2は、FDEの仕事の中身そのものです。業務のどこにAIを使い、どこに使わないかを判断する考え方はAIと最適化で、顧客の事業課題を外から読む方法はIR業務課題で扱っています。

日本の状況:IT人材の不足と、上流を担う人材の不足

日本では「FDE」という職種名の求人はまだ多くありませんが、国内企業でもFDEという名前で募集する例が出始めています(参考に挙げたビズリーチの求人では、顧客の業務現場やデータ環境に入り込み、AI機能を実運用に定着させることが業務内容に書かれています)。

背景にある人材不足は、公的な調査でも示されています。

  • 経済産業省の需給試算:IT人材の需要が高位の場合は2030年に約79万人、中位の場合は約45万人、低位の場合でも約16万人が不足する見通し(2019年の経済産業省資料をもとに、労働政策研究・研修機構が紹介)
  • IPA「DX動向2024」:DXを推進する人材の「量」について、過去の調査と比べて「大幅に不足している」との回答が著しく増え、人材不足が深刻化している。人材類型別では、DXの目的設定から関係者の調整までを担う「ビジネスアーキテクト」の不足が特に顕著

注目したいのは、IPAの調査で特に不足しているのが、実装の担い手ではなく、目的を定めて関係者をまとめる役割だという点です。業務を理解して課題を整理し、作るところまでつなげられる人材は、日本でも足りていない状態だと読み取れます。

日本でFDEを目指す人にとっての意味

海外の動向をそのまま日本に当てはめることはできませんが、次のことは言えそうです。

  • 生成AIの業務導入は日本企業でも進んでおり、AWSの初期顧客に日本企業が含まれるなど、海外のFDE組織が日本の顧客を支援する例も出ている
  • 「実装はできるが要件定義の経験が浅い」エンジニアは多く、上流を補えば役割の幅は広がる
  • 職種名がFDEでなくても、課題整理から実装・定着までを担う仕事は、受託開発や社内DXの現場にもともと存在する

職種としての中身はFDEとは?で、実装の価値がどう変わるかは生成AIで実装が速くなった時代、エンジニアの価値はどこに移るかで詳しく扱っています。

この記事のまとめ

  • FDEはPalantirで定着した働き方で、10年以上前から専門部門が運営されてきた
  • 2025〜2026年に、OpenAI、Anthropic、Google Cloud、AWSなどがFDEの組織を相次いで作った
  • 求人件数の伸びはIndeedやLinkedInのデータで報じられており、どれも非常に大きい
  • 一方で、FDEが技術的負債を残すことへの慎重な見方もある
  • 日本では、IT人材全体の不足に加え、目的を定めて関係者をまとめる人材の不足が調査で示されている

参考

市場が伸びているとしても、FDEとして現場で通用するかどうかは、業務を読んで課題を整理できるかにかかっています。必要な工程を7つのステップに分けたFDEになるロードマップで、どこから身につければよいかを確認してみてください。